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概日リズム睡眠障害の病理と対策

        


 概日リズム(Circadian rhythm : サーカデイアンリズム)という言葉があります。これは、人間をはじめとする多くの生物は、活動する・休む・眠るという基本的なリズム、および体内の働き(自律神経機能・内分泌機能・代謝機能などの様々な生体機能)が1日に約25時間(24.8時間)を周期とするリズムで変動していることから、約1日=概ね1日=概日(がいじつ)のリズムという意味で理解されます。そして、この変動のリズムをもたらしているものを、生体時計体内時計)と呼んでいます。

 ヒトの生体時計の持つ1日約25時間を周期とする内因性のリズムは実際の1日24時間より約1時間長い。社会生活を維持していくためには、1日24時間を周期とする生体リズムに調整していかなければなりません。その仕組みは一体どうなっているのでしょうか?

 専門的には、『生体時計は、
外界のさまざまな事象の時間的変化(同調因子)を手がかりとして、内因性リズムの周期を24時間に微調整するとともに、内因性リズムの位相と外界の時間の関係を調節する(同調機構)。』という言い方をします。

 同調因子とされるのは、(1)光による明暗(昼と夜)、(2)家庭・学校・会社・仕事・遊び(これらを社会的因子と呼びます)、(3)食事(4)身体的運動、そして、(5)温度・湿度・騒音・振動などの環境です。

 それぞれの同調因子としての刺激は感覚器を通して生体時計に伝達され、生体時計を24時間の周期に微調整するわけです。これにより24時間の周期を獲得した生体機能は効果器を通してそれぞれのリズム、すなわち(1)活動・休止リズム、(2)自律神経系リズム・(3)内分泌リズム・(4)代謝リズムなどを発現させます。これが24時間生体リズムの仕組みです。



 1日約25時間の概日リズムで自由きままに暮らしている対象者に高照度光を浴びせると、照射時刻に応じ次の入眠のタイミングが変化する

 また、深部体温が最低点から上昇に転じる朝にあたる時間帯(通常は朝4〜7時頃)に高照度光を照射すると、次の概日周期が短縮して入眠のタイミングが早まる



ということが、研究の結果分かりました。人間には、
朝の光は同調因子として作用し、位相前進反応を起こすことにより、24時間の環境変化に生体リズムを同調させているものと考えられています。

 これらの外界の変化に生体リズムが同調できない場合に、睡眠障害・日中の過度の眠気慢性疲労感そしてなかなか精神が集中できない、などの困難な症状が出現することになるわけです。

 
これらは
睡眠・覚醒リズム障害などとも呼ばれていましたが、1990年に睡眠障害国際分類(American Sleep Disorders Association,1990が発表されてからは、概日リズム睡眠障害circadian rhythm sleep disordersという用語が国際的に広く用いられるようになりました。

 
概日リズム睡眠障害には、

(A)夜勤や時差地域への急速な移動など生体時計に逆らった行動様式による外因性の症候群(ジェット時差症候群交代勤務制睡眠障害
(B)個体の生体時計自身の機能不全により、睡眠と覚醒のスケジュールが社会的に望ましい時間帯から慢性的にずれてしまう症候群(睡眠相後退症候群睡眠相前進症候群非24時間型睡眠・覚醒症候群不規則型睡眠・覚醒パターンなどがあります。
(C)さらに、高齢者社会の出現で、加齢による睡眠・覚醒リズムを含めた生体リズムの障害が、ますます顕著になってきています。高齢者の睡眠障害の背景には、加えて、身体的要因、精神的要因などいくつかの要因が重複して存在するケースが多いので、これからの対策が急務となりましょう。

 これらは、現代社会における生活様式の多様化や、これに伴う照明環境の変化などの影響から、次第に増加しつつあります。概日リズム睡眠障害の中には、(A)のジェット時差症候群や交代勤務性睡眠障害のように誰にでも起こりうる一過性の異常もありますが、そうした特殊状況下でなくても生じる(B)の病的な場合および(C)の高齢者問題が昨今、増加の一途を辿っているようです。

 そこで、それぞれのケースにおける病理とその対策について、代表的な

睡眠相後退症候群Delayed sleep phase syndrome;DSPS

睡眠相前進症候群Advanced sleep phase syndrome;ASPS

非24時間型睡眠・覚醒症候群Non24hour sleep-wake syndrome;Non-24

不規則型睡眠・覚醒パターンIrregular sleep-wake pattern

 および、
痴呆老年者の睡眠・覚醒リズム異常

 について、これから詳しく考察してみたいと思います。これら病的な概日リズム睡眠障害の病態については、まだまだはっきりと解明されているとはいえませんが、最近になって興味ある知見が次々と集積されてきています。

 概日リズム睡眠障害に対する治療法についてもなお確立されているとはいいきれませんが、高照度光療法ビタミンB12メラトニン時間療法などによる治療が試みられており,効果がみられたとの報告がいくつかなされています。

 なお、概日リズム睡眠障害のなかではDSPSの出現頻度が最も高く、ASPSの発病率は少ないと考えられています。

 

 地球上の生命である微生物、植物、動物、そして人類……これらすべての生命現象には約24時間を周期とするリズム、すなわちサーカディアンリズム(概日リズム) Circadian Rhythmがみられます。

 ※ ちなみに、サーカディアンCircadianの語源は、ラテン語の
   サーカ=Circa (about、約) と
ディアン=dian (day、日)です。


 このリズムは、一部は地球の自転によって生ずる昼夜環境に生物が反応した結果として生じますが(外在因性リズム)、大部分は生物に本来備わっている生体リズム(内在因性リズム)が地球の24時間の環境周期に同調した結果として現れるものとされています。

 なお、ヒトの生体リズムには、サーカディアンリズム以外に、1週のリズム1ヵ月のリズム、そして1年のリズムもあることが知られています。


 1972年、哺乳動物のサーカディアンリズムを刻む生物時計(体内時計)が、視床下部の視交叉上核に存在することが明らかにされました。それから四半世紀後の1997年、時計遺伝子がヒトとマウスにおいて単離同定されるに至りました。生体リズム研究は、いまや脳研究の最前線の課題として注目されています。

 一方、1970年代から、時間生物学、すなわち、サーカディアンリズムなどの生体リズム現象を対象に、生物の時間構造を研究し、生体リズムとこれに影響を与える環境の同調因子(光や社会的要因など)との関わりを調べる学問が発展しました。

 これは、医学の諸分野にも影響を与え、のちに時間薬理学時間治療学が誕生するきっかけともなりました。さらに最近では、広く「時間と健康」の問題を研究する立場から、時間医学 chronomedicine という学問も生まれているほどです。

 現代社会は、24時間活動する「24時間社会」へと変化しつつあります。しかし、サーカディアンリズムを正確に刻みつづけるヒトの体内時計と、社会や環境の時計(いわば "体外時計")との間のずれによって精神・身体機能のバランスが崩れてしまうことがもはや無視できない状況にまで立ち至っていると判断されます。さらには、一方で、体内時計そのものがいくらか故障しており、そのために通常の社会や環境に合わせて活動できない人々も数多く発生してきている現実があるのです。

 社会的な認知も、対症療法についても世界の先進国の中でも相当立ち遅れている感のある我が国(米国と比較するとその実態は20年は遅れているようです)においてもようやく近年、このようなサーカディアンリズムと社会生活時間帯とが一致しないために起こる睡眠障害、すなわち「サーカディアンリズム睡眠障害」についての研究が著しく進歩するようになってきたことは嬉しく思います。とともに、このような障害に関連するさまざまな問題について、社会的にももっと注目と正しい理解が、そして何よりこの障害に苦しんでいる多くの(激増中です!)患者さん達への現実的な協力が必要だと思わざるをえません。

                                   2006.12 追記



 それでは、それぞれの詳しい説明と考察については、下記をクリックして先へお進み下さい。
           
睡眠相後退症候群Delayed sleep phase syndrome;DSPS
睡眠相前進症候群Advanced sleep phase syndrome;ASPS
非24時間型睡眠・覚醒症候群Non24hour sleep-wake syndrome;Non-24
痴呆老年者の睡眠・覚醒リズム異常


       
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<老年期痴呆に光療法> 夜間徘徊に希望の光    ← Click Here
Click Here 参考記事:“睡眠障害治療へ工夫”(京都新聞)
Click Here 参考記事:“睡眠外来の訪問者たち@”「睡眠時無呼吸症候群」(京都新聞)
Click Here 参考記事:“睡眠外来の訪問者たちC”「ナルコレプシー」(京都新聞)
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