【複雑系思考】のセンス。

第2回目の投稿:2000-07-31
[from50]のみなさんへ: MUSEさんへ:

Poesieです。こんばんは。

      [複雑系のセンス]
       第2回を、ゲーム理論についてのコラムから、始めてみます。

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私たちはしばしば社会の仕組をゲームとして理解しようとします。ゼロサム社会というのもその一つです。人間の社会は、誰かが利益を得れば誰かが同じだけ損をしていて、両方を足し合わせると損得がゼロになるようなゲームだといっているのです。損得がゼロでなくて、いつも一定になるような場合も、広い意味でゼロサム・ゲームといっています。誰かが得をしていれば、私が損をしているという性質は同じですから。


 私たちは受験競争から組織での昇進競争まで、ゼロサムのゲームに慣れているので、およそ社会というのはゼロサムだと思ってしまいます。オプションを中心にしたマネーゲーム(全融工学とも呼ばれています)も、ゼロサムになっていて、誰かが大儲けしていると、どこかで大損が発生しているのです。世の中がすべてゼロサムだとすると、まわりの誰かが成功すると、自分には何の関係がなくても、ねたましく思うことになってしまいます。成功の総数は限られているので、誰かの成功は私の成功の可能性を少なくしてしまう、というわけです。


これに対して、国と国との外交をめぐる交渉は、おたがいに協調すればともに利益が上がり、おたがいに相手を裏切ると、ともに損をするという具合になっていて、ゼロサムでない、もっと手の込んだゲームとして扱われることになります。私たちの付き合いから、会社どうしの付き合いまで含めて、こうしたゼロサムでないゲームもまたたくさんあります。


 このように私たちの社会から生物の進化まで、広い範囲でゲームの見方が応用されてきています。それではゲーム理論はどんなところに注目して議論を進めていくのでしょうか。


 ゲーム理論はいまから50年ほど前に、数学者のフォン・ノイマンと経済学者のモルゲンシュテルンの二人によって体系化されました。彼らは、人びとの行動の特徴や社会の制度といったものを理解するために、人ぴとの行動や経済の活動をゲームの形で表わしました。そのうえでゲームでどんな関係が安定であるかを調べました。ゲームで安定した関係が見つかれば、それが現実に見られる行動や制度を理解するための手がかりになるはずだ、と考えたのです。


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新聞の社会面を見ていると、私たちが住んでいる社会は協調と裏切りで溢れていることに気づかされます。一方で、自ら損をして相手を助ける人(利他主義者)がいて、他方で相手をだまして自らの利益を増やす人(利己主義者)がいる。いったい私たちは善人なのでしょうか、それとも悪人なのでしょうか。性善説と性悪説をめぐる議論も、昔から繰り返されています。


 かつて社会契約論を提案した、イギリスの哲学者のホッブス(1588〜1679)の考えは明瞭です。彼は人間の自然状態を「万人の万人に対する闘争」の状態だと考えました。自然のままでは人ぴとは闘い合い、裏切り合うだけだというわけです。この深刻
な事態のことを「ホッブス問題」といいます。こうした裏切り合いの無秩序をなくしていくためには、人ぴとが契約を結ぶことで、自然の状態を超えなくてはならない、とホッブスは主張します。


 それではホッブス問題はもう解かれたのでしょうか。どうもこれは人類史が続く限り間い続けられる、永遠の問題かもしれません。そして新しい時代は、ホッブス問題に新しい光を当てます。


進化ゲームの理論を手にした私たちは、人類史も進化ゲームが繰り返されている過程として捉えることができるようになりました。その試みのなかから、ホッブス問題への関心がまた高まっているのです。


 私たちは所詮、自分の利益を最も大事にする利己主義者なのだ。ゲーム理論はこれを認めるところから始まります。利己主義者たちが集まってできるのが私たちの社会だから、そこには裏切り合いしかないだろう。こう短絡するのがホッブスの考えです。


 しかし進化ゲームで考えていくと、事はそう単純ではないのです。それだけではなくて、利己主義者たちの集まりからさえ、自然に協調が生まれることも可能なのではないか。最近のゲーム理論は、この新たな可能性までも引き出そうとしているのです。


それではゲーム理論は、どのようにしてこの難問にアプローチするのでしょうか。ここに物理学と同じ発想が生かされるのです。利己主義者たちからなる社会の特徴をうまく描きだした、なるべく単純なモデルをつくって、これを徹底的に調べることで、現実の社会を理解する手がかりを得よう、というわけです。そうした社会のモデルとしてすでに高く評価されているのが【囚人のジレンマ】と呼ばれているゲームです。


 簡単に囚人のジレンマの内容を紹介しましょう。このゲームは二人あるいは二つのグループの間で行なわれます。選ぶことのできる戦略は【協調】か【裏切り】の二つです。いま二人がともに相手と協調すればまずまずの利益を手にできますが、相手が協調しようとするときに私が裏切ると、私は最大の利益を得、相手は最大の損をしてしまいます。ところが自分の利益を何とか多くしようとして、ともに相手を裏切ると、二人とも利益はなくなってしまうのです。


 これがゲームの大まかな内容です。このゲームでは、おたがいに協調すればよいことがわかっていても、ともに裏切ってしまうことになります。つまりジレンマに陥るのです。


囚人のジレンマは、1950年代に生まれて以来、人びとの付き合い、企業どうしの付き合い、国際関係まで、協調したいのに裏切ってしまうジレンマ状況を簡潔に表現できるモデルとして、広く用いられてきました。


 その重要性は、生物学での大腸菌に匹敵する、といわれているくらいです。分子生物学が発展するに際して、最も単純な生物である大腸菌を、すべての生物のモデルとして位置づけて、これを徹底的に調べたのでした。ここから生物に共通の遺伝子の構造と機能が明らかになってきたのです。


 これと同じように、囚人のジレンマを徹底的に調べることで、社会に広く見られるジレンマについても理解が深まり、解決の手かがかりも得られるのではないか、と期待されているのです。ここにもモデルを用いて研究していく物理学の発想が生かされています。


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「囚人のジレンマ・ゲーム」を一回しかやらないときには、合理的なプレイヤーは論理的に考えて、ともに裏切るという結果に落ち着いてしまいます。利己主義者は囚人のジレンマ・ゲームで裏切り合うだけなのです。


 しかし私たちの社会では、ゲームが繰り返し行なわれるのが通常です。それでは囚人のジレンマのゲームを繰り返し行なうと、どうなるでしょうか。


 少し考えただけでも、一回だけのゲームと違って、将来への期待も生じてくることがわかります。すると、このジレンマを生き延びるうえで、ともに裏切り合うだけというよりも、もっと有利な戦略があるかもしれません。


そこでアメリカの政治学者のアクセルロッドは、世界中のゲーム理論の専門家に呼びかけて、繰り返して囚人のジレンマ・ゲームを行なうときに、強いと思われる自信作の戦略を募集しました。そのうえでこれらすべての戦略をコンピュータに記憶させて、コンピュータの上でリーグ戦を行なわせました。本当に強い戦略はどれだろう、というわけです。


 このリーグ戦で総合優勝したのは、実は集まった戦略のなかで内容が最も単純なものでした。

 それは、1.はじめに【協調】を選び、
       2.二回目からは、相手が前の回に選んだ手を取る、

というものです。


 相手が協調してくれば、私も協調し、相手が裏切れば、私も次の回で相手を裏切る。その戦略の特徴から、これは「しっぺ返し戦略」と名付けられました。


アクセルロッドがしっぺ返し戦略の強さを確かめたのが、いまから15年あまり前です。その成果を1984年に『協調牲の進化』という題の本にまとめました。それ以来、国際政治の分野から、生物の行動を調べる分野まで、大きな影響を与えていまに至っています。そしていま「しっぺ返し戦略」は、ゲーム理論のキーワードの一つになりました。


 なお、アクセルロッドはその後も研究を進め、ごく最近『協調性の複雑さ』という本を書きました。


 私たちの日々の付き合い方についても、しっぺ返し戦略は貴重なヒントを与えてくれます。たとえば、自分から裏切らないこと相手の裏切りには即座に反応すること相手の協調にもすぐに反応すること単純明快であること関係を長く続けること、などです。ゲーム理論はすぐれて実践的でもあるのです。


 人類を含めて生物の進化の過程はこれまでしばしば、「すべての個体のすべての個体に対する闘争」として理解されてきました。しかしジレンマ状況にあってさえ、協調的な戦略が生まれてくることを、しっぺ返し戦略は主張しているのです。そうした目で、あらためて生物の世界を眺めてみると、いろんなところに「しっぺ返し戦略」が広く見られることがわかってきています。政治の世界での駆引もその例に洩れません。


 こうしてゲーム理論はいま、進化の過程を理解する理論として大きく発展しています。数学の理論が人類史の理解に深く結ぴついているというのは、おもしろい話です。


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今日は、ここまで。

By Poesie

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続きは、ボチボチとやっていくつもりです。気が向いたら、またお訪ね下さい。


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