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認知症痴呆老年者の生体リズム障害
とその新しい治療法についての考察


生体リズムからみた加齢による睡眠障害

 高齢者にみられる睡眠障害の訴えとして最も多いものは不眠、熟眠困難、頻回の中途覚醒、早朝覚醒など。このような睡眠障害をひき起こす要因として、夜間の頻尿,睡眠時呼吸障害,夜間ミオクローヌスなどの身体的要因や、神経症やうつ病といった精神的な要因なども見逃すことができないものとされています。

 しかし、高齢者のなかにはこのような身体的要因や精神的要因が見いだせない場合でも高度の睡眠障害がみられることがあります。このような場合に、高齢者の睡眠障害の背景に、加齢に伴う睡眠・覚醒リズムを含めた生体リズムの障害が推定されます。また、このような高齢者の睡眠障害の発症には、ひとつの要因だけでなく、いくつかの要因が重複して存在し、睡眠障害が発症しやすい状況にあるともいえます。
 
加齢による生体リズムの変化

 ヒトのさまざまな生体リズムは、健康な日常生活をおくるための生体の適応機能のひとつといわれます。

 健康な成人は、昼間に起きて活動し、夜間には休息をとるという一日の生活に合わせて、@体温や血圧などの自律神経系A副腎皮質ホルモンなどの内分泌系B酵素・代謝系C免疫系などが相互に秩序正しい位相関係を保っています。

 さて、高齢者ではこれらの生体リズムに加齢による変化がみられ、心身の機能に大きな影響を与えていることが考えられます。加齢による生体リズムの変化としては、

    1)それぞれの生体リズムの振幅の低下あるいは平坦化,
    2)1日の平均値の低下,
    3)位相の前進あるいは後退などの位相偏位


があげられ、それぞれの生体機能のリズムによってその表現形が異なっています。例えば、睡眠・覚醒リズムの振幅が減少すると夜間の睡眠量が減少し、昼間にも睡眠がみられ、また一晩の睡眠構築では深睡眠が減少し、睡眠効率が低下します。

 睡眠の位相が前進すると一続きの睡眠が夜の比較的早い時期にみられ、平均値の低下としては総睡眠時間が減少し、不眠傾向を示すなど、老人に特徴的な睡眠となるわけです。

 体温リズムにおいても平坦化,平均体温の低下,時に突発性低体温が出現するなど、ホメオスターシスの障害などが加わることもあります。このような生体リズムの障害は、老人の日中の活動性をさらに低下させることになります。

 規則的な生体リズムが発現されるためには、生体リズムの発現機構が正常に働いていることが必要です。高齢者ではこの発現機構のいずれかの部位に障害が起こることが考えられます。



 生体リズムの発現機序,ヒトの生体時計は1日約25時間を周期とする固有の内因性振動を持ちます。1日24時間を周期とする生体リズムを発現させるために、外界のさまざまな事象の時間的変化(同調因子)を手がかりとして、内因性リズムの周期を24時間に微調整するとともに、内因性リズムの位相と外界の時間の関係を調節します(同調機構)。それぞれの同調因子としての刺激は感覚器を通して生体時計に伝達され、生体時計を24時間の周期に微調整します。これにより24時間の周期を獲得した生体機能は効果器を通してそれぞれのリズムを発現することになります。

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 (1)まず第一に、同調因子としてのさまざまな事象が少なくなることです。多くの高齢者は、社会生活の第一線からは引退した状態であり、外出する機会が少なくなり、日中の身体的活動量や高照度光への暴露時間が減少し、また感覚器障害や認知障害のため同調因子を十分に受容することができない状態となります。

 このような同調因子の減弱により引き起こされると考えられる睡眠障害痴呆患者にかなり多くみられ、このような場合には、や社会的同調因子を強化する方法により睡眠障害が改善される場合があります。この詳細については後述することにします。


 (2)第二に、生体時計の機能的あるいは器質的障害があげられます。高齢者、特にアルツハイマー型痴呆患者では、生体時計と考えられている視交叉上核の容積や神経細胞の減少がみられ、また視交叉上核と関連の大きい松果体含有メラトニン量の昼夜での変化が消失することなどから、視交叉上核が生体時計としての役割を十分に果たしていないことが推測されます。

 また高齢者ではジェット飛行による時差交替制勤務などに対する適応が遅く、困難な場合もあります。これらのことから高齢者の同調機能の低下が示唆されます。


 (3)第三に、自律神経系や内分泌系のホメオスターシスやフィードバック機構の生体リズム機構への影響です。例えば、高齢者では外界の気温の変化に対する体温の調節能力が低下することによると考えられる異常な低体温がみられることがあり、このために体温リズムが不規則になる場合があります。


 (4)第四に、外界からの刺激を感覚器を経て生体時計に伝達し、さらに効果器を経てリズム発現に至るまでの伝導路に障害がある場合にも生体リズムの乱れとなって発現されます。多発性脳梗塞巣のみられる高齢者では、大脳皮質や白質の広範な梗塞のため伝導路が障害される結果として睡眠・覚醒リズムが不規則になると考えられています。


 以上のように高齢者では生体リズム発現過程におけるさまざまな部位に障害が起こりやすい状況にあります。高齢者の睡眠障害はさらに心身の不調をひき起こし、活動性を低下させ、生活の質を低下させることにつながります。

体内時計のしくみ

うつ病
認知症(痴呆老年者の生体リズム障害

 認知症(痴呆)老年者には睡眠・覚醒リズム障害が高頻度にみられ、これは生体時計の機能的あるいは器質的障害と関連するものと考えられます。ここでは加齢に伴う睡眠・覚醒リズム障害を示す代表例として、最も多い脳梗塞型やアルツハイマー型老年痴呆の患者を対象とした研究の成果の一部を紹介することにします。

 この研究は、(1)睡眠・覚醒リズムの記録とともに、自律神経系リズムの代表として(2)体温リズム,内分泌系リズムの代表として(3)メラトニン分泌リズムを検索し、またこのような睡眠・覚醒リズム障害の背景に同調因子の減弱があるのではないかとの仮説のもとに、同調因子を強化するための方法として時間生物学を応用した(4)さまざまな治療法を試みたものです。

 対象とした患者は、さまざまな程度の痴呆症状に加えて、睡眠障害と異常行動を示したために、家庭や一般病院での治療や介護が困難となり、精神病院あるいは老年精神科病棟に入院した患者多数(多発梗塞型痴呆及びアルツハイマー型痴呆)、年齢は56〜85歳。

 異常行動の内容は夜間徘徊,乱暴な行為,不潔,異食,放尿,盗み,着衣失行,あるいはせん妄による異常行動などさまざま。痴呆の程度は知能テストの結果に基づき、中等度あるいは重度痴呆と判定。

 すべての患者について、1〜2ヶ月間にわたり、看護者が毎日1時間ごとに患者を観察して、その睡眠・覚醒リズムをsleep diary(睡眠日誌)として記録し、また患者の異常行動についても詳細に観察・記録したもの。これらの睡眠・覚醒ならびに行動の記録は次に述べるさまざまな治療観察中、および終了後も継続して行ったとされます。

 地球上の生命である微生物、植物、動物、そして人類……これらすべての生命現象には約24時間を周期とするリズム、すなわちサーカディアンリズム(概日リズム) Circadian Rhythmがみられます。

 ※ ちなみに、サーカディアンCircadianの語源は、ラテン語の
   サーカ=Circa (about、約) と
ディアン=dian (day、日)です。


 このリズムは、一部は地球の自転によって生ずる昼夜環境に生物が反応した結果として生じますが(外在因性リズム)、大部分は生物に本来備わっている生体リズム(内在因性リズム)が地球の24時間の環境周期に同調した結果として現れるものとされています。

 なお、ヒトの生体リズムには、サーカディアンリズム以外に、1週のリズム1ヵ月のリズム、そして1年のリズムもあることが知られています。


 1972年、哺乳動物のサーカディアンリズムを刻む生物時計(体内時計)が、視床下部の視交叉上核に存在することが明らかにされました。それから四半世紀後の1997年、時計遺伝子がヒトとマウスにおいて単離同定されるに至りました。生体リズム研究は、いまや脳研究の最前線の課題として注目されています。

 一方、1970年代から、時間生物学、すなわち、サーカディアンリズムなどの生体リズム現象を対象に、生物の時間構造を研究し、生体リズムとこれに影響を与える環境の同調因子(光や社会的要因など)との関わりを調べる学問が発展しました。

 これは、医学の諸分野にも影響を与え、のちに時間薬理学時間治療学が誕生するきっかけともなりました。さらに最近では、広く「時間と健康」の問題を研究する立場から、時間医学 chronomedicine という学問も生まれているほどです。

 現代社会は、24時間活動する「24時間社会」へと変化しつつあります。しかし、サーカディアンリズムを正確に刻みつづけるヒトの体内時計と、社会や環境の時計(いわば "体外時計")との間のずれによって精神・身体機能のバランスが崩れてしまうことがもはや無視できない状況にまで立ち至っていると判断されます。さらには、一方で、体内時計そのものがいくらか故障しており、そのために通常の社会や環境に合わせて活動できない人々も数多く発生してきている現実があるのです。

 社会的な認知も、対症療法についても世界の先進国の中でも相当立ち遅れている感のある我が国(米国と比較するとその実態は20年は遅れているようです)においてもようやく近年、このようなサーカディアンリズムと社会生活時間帯とが一致しないために起こる睡眠障害、すなわち「サーカディアンリズム睡眠障害」についての研究が著しく進歩するようになってきたことは嬉しく思います。とともに、このような障害に関連するさまざまな問題について、社会的にももっと注目と正しい理解が、そして何よりこの障害に苦しんでいる多くの(激増中です!)患者さん達への現実的な協力が必要だと思わざるをえません。

                                   2006.12 追記



(1) 睡眠・覚醒リズム

 これらの患者の睡眠・覚醒リズム障害としては、昼夜が逆転したような睡眠・覚醒リズム、あるいは毎日、入眠と覚醒時刻がまちまちであり、しばしば昼寝がみられたり、不規則なパターンを示すものなどさまざま。そしてこのような睡眠・覚醒リズム障害には異常行動を伴う場合が多く、これらの患者の1日の平均睡眠時間としては4.7 ± 3.4時間と不眠傾向を示すものから、9.2 ± 1.2時間と過眠傾向を示すものまでさまざまだったといいます。

 睡眠・覚醒リズム障害の程度を1日の総睡眠時間のうちに夜間睡眠が占める割合で表示すると、1日の夜間睡眠量が27.1%である患者から89.0%である患者までさまざまであった。夜間睡眠量が極瑞に少ない症例には昼夜逆転した睡眠・覚醒リズムがみられ、しかも不眠傾向がみられた。夜間の睡眠時間が比較的多い症例は睡眠・覚醒リズム障害は軽度であった。ということです。


(2)体温リズム

 体温リズムと睡眠・覚醒リズムの関連について調べると、健常者では、規則正しい24時間を周期とする体温リズムがみられるが、痴呆患者では日常生活動作に障害のある群とない群とではやや異なったパターンを示しました。

 片麻痺やパーキンソン症状のため日常生活動作に障害のある患者では、体温の変動が少なく、また1日の最高体温と最低体温の出現時刻が一定せず、1日の体温が平坦化している。これらの患者は夜間十分に眠っているが昼間にも時々睡眠がみられたり、また睡眠・覚醒リズムは障害されていないが、体温リズムのみ平坦化している場合があり、睡眠・覚醒リズムと体温リズムの障害が一致していない場合もある。という結果。

 一方、日常生活動作に障害のない群では、徘徊や異常行動が多くなると1日の体温の変動が大きく、しかも1日の最高体温と最低体温の出現時刻が一定せず、体温のリズムが不明瞭である。これらの患者は不眠傾向を示す場合があり、睡眠・覚醒リズムは振幅の低下として表現される。という結果が出ました。

 このように痴呆群には体温リズムの障害がみられ、高度の場合には体温リズムが平坦化したり、あるいは変動幅が増大して不規則化した。いずれの場合も体温リズムの崩壊であるといえます。

 体温リズム(口腔温)の検索を行った痴呆群中の59.2%では、体温の概日リズムが不明瞭であり、異常な低体温がしばしば出現した。痴呆群では平均体温が低く、変動幅(1日の最高体温と最低体温の差)が大きく、また最高体温の出現時刻が前進しているという結果が得られた。とのことです。


(3)血清メラトニン値

 痴呆群では血清メラトニン値は0時と12時の成績はともに健常者に比較して有意に低下していた。このことから、痴呆群では、1日のメラトニン分泌量が少なく、メラトニン分泌リズムの振幅が低下していることを示唆している。といえます。


−−−以上の成績から、痴呆老年者では睡眠・覚醒リズムの障害とともに、体温や血清メラトニンなどの自律神経系,内分泌系の概日リズムにも障害がみられる場合が多いことが示唆されたといえます。



(4)睡眠・覚醒リズム障害の時間生物学的治療

 老年者における睡眠・覚醒リズム障害をひき起こす因子としては同調因子の減弱による場合がかなり多いと考えられます。そこでこれら痴呆老年者について同調因子を強化する方法、あるいは同調機構の働きを強めると考えられる時間生物学的治療法を試みたわけです。その結果を示します。

 4-1.社会的接触の強化

 睡眠・覚醒リズム障害を示した痴呆患者に対し、社会的同調因子を強化することを目的として、看護者が患者に接する機会を多くし、患者に話しかけたり、屋外での散歩に患者を連れ出したり、簡単な手作業をさせたりした。このような試みを午前10時から1.5時間と、午後2時から1.5時間、あわせて1日3時間を約1ヶ月間にわたって試行しました。

 それらの結果として、睡眠・覚醒リズムの異常を著しく改善させうる場合があった。ある症例では、不規則な睡眠・覚醒リズムがみられ、せん妄などの夜間の異常行動は薬物療法によっても改善されなかったのが、看護者による社会的接触を強化することこより、かなり規則正しい睡眠・覚醒リズムがみられるようになった。このような社会的同調因子を強化する方法を用いた症列のうちの26.7%では、睡眠・覚醒リズム障害の明らかな改善がみられたと報告されています。



4-2.高照度光療法

 高照度光療法は、日中に強力な同調因子を与えて、昼夜を明確に認知させることを目的としたものです。

 治療去は、毎朝9時から11時までの2時間卓上型光治療器を用いて患者に高照度光を照射する方法。この研究に使用された光療法器では、照射面より1mの距離で約3,000ルックスの照度が得られます。ある症例では、高照度光療法を開始してからまもなく入眠障害の改善と異常行動の減少がみられたといいます。

 このような高照度光療法を実施したのは、睡眠・覚醒リズム障害を示した痴呆患者であり、そのうちの50.0%に有効であった、と報告されています。

 これらの同調因子の強化により、乱れた睡眠・覚醒リズムが再調整されるメカニズムについては現在のところ全く解明されていません。高照度光が視覚系を通して、生体時計に作用するメカニズムについてメラトニン分泌が関与しているとの説がありますが、今回の成績では高照度光照射による血清メラトニン値にほとんど変化がみられなかったことから、痴呆老年者の睡眠・覚醒リズム障害に対する高照度光の作用はメラトニンを介するものではないことが示唆されます。

 社会的接触にせよ、高照度光にせよ、いずれも昼間の睡眠を減少させ、,夜間の睡眠を増加させ、これと共に、せん妄などの異常行動が消失したことから、このような同調因子を強化することにより、昼間の覚醒レベルを上昇させることが考えられます。

      



 4-3.頭部低電圧パルス通電治療

 これまでに述ぺた社会的同調因子の強化高照度光療法で日中の覚醒レペルを上昇させることが睡眠・覚醒リズム障害の改善をもたらすことが推定されます。

 そこで、この研究では、さらに、覚醒レベルを上昇させることを目的として開発され、すでにその効果が実証されている頭部パルス通電機器を用いて、睡眠・覚醒リズム障害を示す痴呆老年者への応用を試みました。この治療器は頭部パルス通電(電圧6〜8V,漸増性に変化する周波数6〜80Hz,ピーク電圧,12mV)を用いる方法で、今回、睡眠・覚醒リズム障害と異常行動がみられた痴呆老年者に午前10時から20分間の通電治療を試みました。

 この治療法を多数の痴呆老年者について二重盲検交叉法により効果を検定したところ、睡眠障害と異常行動に著明な改善効果がみられた、といいます。

 さらに同時に行った脳波記録の結果より、頭部通電に日中の覚醒レペルを上昇させる効果があると判定されました。

 このことから頭部通電により感覚系を介する刺激が脳の覚醒機構に及ぽす作用を増強させることによるのではないかと推測されます。この成績は前述の看護者による働きかけや高照度光による同調因子の強化とほぽ同様の改善経過を示していることから、これら同調因子の強化についても同じように昼夜の覚醒レベルを上昇させるような働きによるものと考えることも可能である、と結論づけられています。

 4-4.ビタミンB12治療

 ピタミンB12は末梢神経炎や悪性貧皿の治療薬として開発されましたが、近年種々の中枢神経疾患とビタミンB12の関連についての報告がみられるようになり、また、ビタミンB12の睡眠・覚醒リズム障害に対する治療効果が次々と報告され、適応と作用機序に関する研究が行われているものです。

 この研究ではまた、痴呆老年者の睡眠・覚醒リズム障害について、ビタミンB12の応用を試みました。それによると、ある症例ではビタミン投与のみでは睡眠・覚醒リズム障害に対して改善効果がみられませんでしたが、看護者の接触を多くすることによる社会的同調因子の強化とビタミンB12の投与を同時に行った場合には著しい改善効果がみられたようです。

 この効果はビタミンB12が生体リズムの周期を直接的に変化させることによって生じたものではなく、ビタミンB12が同調因子に対する生体の感受性を増強させる作用を介して生じたものと推測される、としています。

 患者によってはビタミンB12内服により血清ビタミンB12濃度がほとんど上昇せず、ビタミンB12が消化管から吸収されない場合があることが考えられました。そこで注射による投与法(500mg,筋注,隔日投与)を試みたところ効果がみられる場合があったようです。

 これらの症例では睡眠がかなり不規則であるとともに、1日の睡眠時間がかなり短い場合がありました。このような症例ではビタミンB12投与により昼間の睡眠時間が減少するとともに夜間の睡眠時間が増加し、全体として睡眠・覚醒リズム障害が改善しました。したがって、ビタミンB12には夜間の睡眠時間を増加させる催眠作用のあることが考えられます。このようなヒタミンB12の効果発現の機序については、今後さらに検討が必要になることでしょう。


 考 察

 この研究から、痴呆老年者では睡眠・覚醒リズムの障害とともに、体温や血清メラトニンなどの自律神経系,内分泌系の概日リズムにも障害がみられる場合が多いことが示唆されました。

 さらに、これら痴呆老年者の睡眠障害に伴って高率にみられるせん妄や異常行動の背景には、このような生体リズムの障害があるものと推定されます。これまでの報告にもあるように、このような生体リズムの障害、特に睡眠・覚醒リズムの障害は明らかな痴呆のない高齢者や軽度の痴呆患者にもさまざまな程度にみられるもの。

 しかし、脳に梗塞巣やアルツハイマー病変をもつ患者では、これら生体リズムの障害は一層に顕著になるものと考えられています。

 このような加齢によるさまざまな生体リズム障害の要因について、先に同調因子の減弱による可能性について触れましたが、このことは本研究で社会的同調因子や光同調因子の強化により睡眠・覚醒リズム障害が改善される場合があったことからも明らかである、としています。

 しかし、このような同調因子の強化により改善される生体リズムは主に睡眠・覚醒リズムであり、体温リズムの改善を伴う例は少なく、さらに血清メラトニンリズムが改善した症例はほとんどみられなかった、といいます。そこで高齢者の生体リズム障害の要因として次に考えられることは、生体時計の障害であるということになります。

 高齢者では、生体時計の機能が低下している状態にさらに同調因子が減弱した状況が加わると、睡眠・覚醒リズムの障害がますます激しくなるものと推定されています。



 ヒトが健康な日常生活をおくるために、生体時計は一時も休みなく働いている。老年者、特に痴呆老年者ではさまざまな同調因子を十分に受容できない状態、あるいは中枢神経系の老化による生体時計の機能的あるいは器質的障害のために発現される生体リズムに異常がみられ、睡眠障害やそれに伴う異常行動として観察されます。

 この研究から、老年者の睡眠障害や異常行動などの不都合な症状を治療するために同調因子を強化する方法やビタミンB12などが有効である場合のあることが明らかになりました。しかし、これらさまざまな治療法の適応についてはまだ十分な検討が行われていません。今後、それらの治療法の適応について、同調因子の減弱,脳障害の部位,痴呆の程度,背景にある生体リズム障害などの高齢者の個体側の要因とあわせて、高齢者がおかれている環境面についても総合的に検討することが重要であり、それを通じて一層的確な治療法を見いだすことが可能になると考えられます。

  


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睡眠相が遅れた状態で慢性的に固定された状態。睡眠は十分に取れているが、定刻に出勤・登校できない。思春期から青年期に発症することが多く、夏休みなどの長い休暇中の昼夜逆転生活、受験勉強などが誘因となります。

A非24時間睡眠・覚醒症候群          
【実例2】 ← Click Here
  
睡眠相が約25時間の周期で毎日約1時間ずつ後退します。睡眠相が定まらないだけに、社会的な不適応が深刻な状態になってしまう場合もあります。

B睡眠相前進症候群               【実例3】 ← Click Here
  
睡眠相が極端に前進した状態です。高齢者に多くみられます。「年寄りは早寝・早起き」といわれる通り、概日リズムの周期が24時間よりも短くなったのが原因と考えられます。
  
<睡眠・覚醒のリズムを整えるために>〜家族の協力〜← Click Here
<冬期うつ病に光療法>〜起床直後の2時間、光を浴びる ← Click Here
<老年期痴呆に光療法> 夜間徘徊に希望の光    ← Click Here
Click Here 参考記事:“睡眠障害治療へ工夫”(京都新聞)
Click Here 参考記事:“睡眠外来の訪問者たち@”「睡眠時無呼吸症候群」(京都新聞)
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